東亞合成研究年報2号
1999年01月01日発行
技術総説
オキセタン化合物の光カチオン硬化システムへの応用
論文
針状ヒドロキシアパタアイトの特徴と応用
ヒドロキシアパタイト(以下HApと略す)は、特にタンパク質等の生体高分子の分離に有用なことで知られていたが、合成方法を研究する者と、それを用いる者とが別々であった為、これまで十分な応用研究がなされなかった。また、従来、HApは板状結晶であった為、カラム充填剤として用いた場合、流速が低下するなどの現象が認められ、使い難い材料であった。この問題に関して岩村ら1)は、HApを湿式合成する際に、反応温度を調整することによって、大粒子のカラム通液性の高いHApが生成することを発見した。
今回、筆者等は、この大粒子のHApを加熱処理した場合のタンパク質吸着挙動の変化や、HApを用いたカラムクロマト分離の際の溶液のpH変化に対するタンパク質溶出パターンの変化などについて検討を行い、本HApの特性について考察を行った。
その結果、大粒子のHApの形状は、従来のHApの板状結晶に対して、針状の凝集体になっており、表面電位及び、タンパク質の分離吸着挙動でも、従来品との差が有ることが分かった。即ち、結晶学的にa面が多いと思われる針状結晶は、主に正に帯電していると思われる酸性タンパク質のBSAをより多く吸着することがわかった。また、HApを加熱すると、部分的な炭酸化が起こり、タンパク質吸着性能が変化する現象も認められた。加熱処理温度が高くなると、BSAの吸着量は更に減少していった。
この大粒子HApをカラムに充填し、反応基質の吸着剤として用いる、新規な固相合成(反応)法について検討を行った。その結果、HApを固相として、IgGの酵素標識化、蛍光標識化等の反応に用いることに成功した。また吸着させたIgGをペプシンで分解させて、F(ab')2を得ることも出来た。
以上から、HApを固相として、様々な固相反応が行える可能性が見出せた。
アクリル酸系ポリマーのクレイサスペンション中における吸着挙動
低分子量ポリアクリル酸ナトリウム及び各種アクリレートとの共重合物を合成し、クレイ(カオリン)サスペンションに対する分散性を検討した。
サスペンションの粘性及び吸着量測定の結果、同じ分子量のポリマーにおいては、カルボキシル基密度が高いほど低粘度化が可能であった。NaClを添加した系においては、添加量が多くなるに従い、粘度、吸着量共に増加の傾向を示した。高温系においては、飽和吸着の状態で温度の上昇により、ポリマーが脱着する傾向があり、それに応じた粘度を示した。また、ブチルアクリレートを含む共重合物は、その疎水性基の構造によると思われる特異な粘度挙動を示した。
ポリマーの吸着量およびサスペンションの粘度は、静電相互作用と疎水性基などの構造による相互作用のバランスによって大きく影響を受ける。今後、疎水性基を有するアクリレートとの共重合体により、高塩濃度、高温度条件下でのサスペンションの制御が期待できる。
腫瘍血管新生を標的とした新しい癌治療
癌が爆発的な増殖をするためには、栄養の供給路としての血管新生が必須である。われわれは、血管内皮増殖因子(VEGF)が、癌が自ら産生する血管新生因子であることを明らかにした(S. Kondo, M. Asano and H. Suzuki, Biochem. Biophys. Res. Commun., 194, 1234-1241(1993))。VEGFの活性を阻害することで、癌の治療が可能になるかもしれないとの考えのもとでVEGF阻害剤の研究が最近活発になってきている。われわれは、中和抗体を用いてVEGFの活性を阻害することで強い抗腫瘍活性が得られるのではないかと考えてヒト腫瘍移植ヌードマウスモデルを用いて検討した。その結果、臓器の由来にかかわらず調べた限りすべての種類の癌に対して抗VEGF中和単クローン抗体(MV833)が、その増殖を強く抑制した。MV833は、腫瘍血管新生を抑制する新しいタイプの作用機序を持った抗腫瘍スペクトルの広い制癌剤になると考えられた。また、MV833は、癌の転移や腹水の貯留の抑制に対しても有効であることが明らかとなった。MV833は、癌治療の分野において新たな1ページを作るかもしれない。