東亞合成研究年報10号
2007年01月01日発行
論文
A new approach to the preparation of MoTeVNb mixed oxide catalysts for the oxidation of propane to acrylic acid
工業触媒は一般的に原料成分の溶液から出発し、共沈を経て作られるが、適切な水溶性原料が存在しない場合、非水溶性原料の成分間の酸化還元反応(Redox均一化法)を利用し、均一化させる方法も知られている。著者らは後者の方法を利用して高難度触媒反応のひとつとして知られるプロパンからアクリル酸への選択酸化に有望なMoSbVNbOx系触媒系を初めて見出した。一方、前記の酸化反応にもうひとつ有効な触媒系としてMoTeVNbOx系が知られ、溶液ルートで作られる。著者らはRedox均一化法が適切な水溶性原料が存在しない場合の次善策でなく、複雑な触媒系に最も有効であり、かつ汎用性のある方法であることを信じ、MoTeVNbOx系にも適用できると考えた。
そこでMoTeVNb系溶液ルートにおいてTeの原料として使われるテルル酸の代わりに金属Teのサブミクロンの微粒子を用い、Mo、V成分間の酸化還元反応を利用し、均一化させた後、さらに電荷バランスや結晶相の形成条件を調整した結果、溶液ルートを大幅に凌ぐ性能を得ることに至った。本論文では、MoTeVNbOX系触媒の調製におけるRedox均一化法適用の結果と触媒の物性特徴などを記述するとともに、Redox均一化法が有効である原因について考察を加えた。
異種イオン構造両性PAMブレンド体の抄紙用歩留向上性能と水溶液中会合現象
製紙工程でのパルプ、填料の歩留率を向上させる為にポリアクリルアミド(PAM)系超高分子量水溶性ポリマー(歩留向上剤)が使用される。最近では古紙配合比率の増大に伴う微細繊維や無機塩類の増加により、歩留性能が劣る傾向にあり、又、高速抄紙下でも紙の均一性(地合)を損なわない高機能の歩留向上剤が求められている。
本研究では、凝集フロック生成時の応力挙動の解析等から、イオン構造の異なる特定両性PAMをブレンド併用することが上記課題の解決策となることを明らかにした。又、上記の応力解析に加え各種の水溶液特性を測定した。その結果、両性PAMブレンド体には相当する非ブレンド体と比較して、水中でそれらポリマーのイオン相互作用に基づく特異なイオン会合が確認され、これが歩留率と地合性の高バランス性をもたらしている要因であると考察された。
フェノール系化合物の合成と5-リポキシナーゼ活性阻害効果
フェルラ酸を出発物質として、ショウガオール類縁体ならびにフラン環に共役したフェノール化合物の合成を行ない、これらの化合物のラット好塩基性白血病細胞(RBL‐1)由来の5‐リポキシゲナーゼ活性に対する阻害効果を検討した。ショウガオール類縁体の中では、側鎖アルキル末端にカルボキシル基を導入した誘導体の阻害活性が低下した以外は、側鎖アルキル基中の官能基の違いによる阻害活性への影響はほとんど観察されず、各誘導体は[6]‐ショウガオールと同等の阻害活性を示すことがわかった。一方、フラン環に共役したフェノール化合物の阻害活性はショウガオール類よりも高く、ノルジヒドログアイアレチン酸の阻害活性に匹敵することがわかった。フラン環に共役したフェノール化合物は、シクロオキシゲナーゼに対する阻害活性も有しており、アラキドン酸代謝系に関連する酵素阻害剤としての可能性が示唆された。
新製品紹介
シーリング剤用反応性可塑剤の開発
建築用シーリング材は、建築物外壁の継ぎ目や隙間に充填し、室内に水分が侵入するのを防いだり、気密性を保つために使用される材料である1)。ベース樹脂(硬化性樹脂)、可塑剤、無機成分等からなる無溶剤タイプの硬化性液状組成物(不定形シーリング材)が一般的に用いられており、なかでもベース樹脂として変成シリコーン樹脂(図1)を用いたシーリング材の需要が高くなっている。
近年、住宅品質確保促進法の施行により、「住宅の漏水防止に対する10年間の瑕疵担保期間」が義務化され、シーリング材に対しても高耐候、高耐久化の要求が高まっている。
当社では、UFO(Uniform Functional Oligomer)プロセスにより得られるアクリルオリゴマーを商品名「ARUFON」として市場展開している。UFOプロセスは高温連続重合により連鎖移動剤を使用せずに分子量調整が可能なため、耐侯性の高い無溶剤アクリルオリゴマーを安価に効率よく得られるという特徴を有している。すでにシーリング材向けの高耐侯性可塑剤として無官能タイプのアクリルオリゴマー「UPシリーズ」を上市している。市場では更に高い耐候性能、高機能化が求められており、今回、湿気硬化性架橋基であるアルコキシシリル基を導入した反応性可塑剤「USシリーズ」を開発した。
環境対応形改修用仕上塗剤
ビルやマンションなどの建物の外壁を塗料などにより塗り仕上げる材料を総じて仕上塗材という。近年の新設の建物ではタイル等の乾式の外壁仕上が多くなっているが、過去の建設ストックの改修用として仕上塗材には一定の需要があり、通常10~20年周期で改修が行われる。仕上塗材としては、防水形複層仕上塗材(通称:弾性タイル)、防水形単層薄塗材(通称:単層弾性)および可とう形改修用仕上塗材が一般的である。
仕上塗材には近年新たな工法は登場していないが、コスト低減と高い美観の両立は常に求められており、現在の外壁改修は工程が短く、仕上塗料の選択肢が多い可とう形改修用仕上塗材(通称:微弾性)の採用が多くなっている。可とう形改修用仕上塗材の施工工程は図1の通りである。
下地調整兼下塗材として用いられる微弾性フィラーは、下地の小さな不陸を目立たなくし、その後に施工される塗料と下地との付着性を確保する目的で施工される。その後施工するトップコートは、溶媒が蒸発して成膜するしくみであるため肉やせがあり、また下地への吸い込みもあるため、1回塗りでは正常に発色せず、通常2回塗りで仕上げられる。よって、可とう形改修用仕上塗材をさらに工程をへらし施工コストを削減するためには、塗料の肉やせをなくすと共に下地への吸い込みを無くせば良い。また、下地の小さな不陸を消す能力を持てばさらに良いことがわかる。
この目的のためには、溶剤をほとんど含まない「無溶剤形」の塗料が適しており、近年のVOC低減のニーズともマッチしている。弊社はUFO技術を利用した無溶剤形のコーティング材の開発技術を持っており、この技術を応用して全く新しい仕上塗材「クリスタルウオール 塗り替え工法」を開発したので以下に紹介する。
靭性に優れる単官能オキセタン
「アロンオキセタン」は、カチオン硬化性官能基として4員環環状エーテルであるオキセタン環を有する化合物である。
カチオン硬化型材料は、光潜在性もしくは熱潜在性の開始剤により重合が始まる。現在UV硬化樹脂として使用されているラジカル硬化型材料と比べ、カチオン硬化型材料は以下の特長を有している。
- 酸素による重合阻害がないため、空気中でも薄膜硬化が可能。
- 光照射終了後も、暗反応(後重合)による硬化が進行。
- 開環重合型モノマーの使用により、硬化収縮を低減することが可能。
- オキセタン化合物は低分子量でも安全性の高い材料が多く、配合系での低粘度化が可能。
当社は、既に4種類の「アロンオキセタン」を上市し、国内外で市場開発を進めている(図1)。
しかし、市場でのカチオン硬化型材料の選択肢は不十分である。我々は、市場の新しい材料への要求に応えるべく、特色のある単官能モノマーの開発を進めてきた(図2)。その中で、「OXT-211(POX)」および「OXT-213(CHOX)」について、それら硬化物が靭性に優れるという特長を見出し、製造体制及び化審法(低生産量)への対応を整え、上市するに至った。ここでは、靭性に優れる単官能オキセタン(「OXT-211(POX)」および「OXT-213(CHOX)」)について紹介する。
新規アルデヒド消臭剤「ケスモン」の特長と応用
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等は、シックハウス症候群の原因物質と考えられている。居住空間におけるアルデヒドガスの低減はアルデヒド非含有材料への切り替え、アルデヒド消臭剤の使用等によって検討されている。また、最近、自動車室内においてもアルデヒドガスの低減が検討されるようになり、アルデヒド消臭剤への注目度が一段と高くなってきている。
当社は、生活空間に存在する様々な悪臭に対応した消臭剤「ケスモン」シリーズを開発しており、既に種々の分野で使用されている。今回、従来のケスモンに比べ格段に高いアルデヒド消臭性能を有する消臭剤を開発した。新開発のアルデヒド消臭剤「ケスモン」の特徴と応用例を紹介する。
分析技術
顕微赤外分光法の活用
赤外分光分析法は、1940年代に発明されて以来分子構造を知ることのできる方法として広く活用されてきた。測定方法も試料を透過させた赤外光を利用する透過法の他に、赤外顕微鏡や全反射プリズムを試料に密着させるATR法(全反射吸収分光法:Attenuated Total Reflectance)など様々な方法が考案されたが、回折格子を用いた当時の分散型赤外分光計は光学系が暗いためこのような複雑な光路に対しては問題を持っていた。
これに対し1960年代以降主にコンピューター等ハードウェアの進歩によりFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)法が実用的となった。これは回折格子ではなく可動干渉計を用い干渉スペクトル(インターフェログラム)を高速フーリエ変換するもので光学系が明るいことや積算回数を増やすことによりS/N比を上げられるといった利点から分散型に比べ感度の向上が図られ現在の赤外分光吸収法の主流となっている。また、これにより複雑な光路を持つ各種測定方法が実用的になり赤外顕微鏡とATRを組み合わせた顕微ATR法も微小領域の分析法の標準となりつつある。ここではわれわれが今回導入した顕微ATR可能なFT-IR装置についてその原理とともにいくつかの測定結果について述べる。
研究コラム
研究におけるコンプライアンス
掲載:『TREND』10号
所属:新製品開発研究所
執筆者名:森 博徳
TGAの誕生と成長
掲載:『TREND』10号
所属:Toagosei America Inc.
執筆者名:江口 浩美