東亞合成研究年報5号
2002年01月01日発行
論文
高温重合によるマクロモノマーの合成とその反応性
200℃以上の高温での連続塊状重合によって合成されたPolyBA(ポリアクリル酸ブチルエステル)は、末端に不飽和結合を有する。高分子鎖1本あたりの不飽和結合数は約0.9であり、高温重合によってマクロモノマーが合成できる。PolyBAのラジカル分解を行うと200℃から高分子の切断が起こり不飽和結合数が増加することから、末端不飽和結合の生成機構は主鎖からの水素引き抜き、そしてβ切断が行われる分解反応であると推定された。BAを主成分としてMMA(メタクリル酸メチルエステル)、AA(アクリル酸)やGMA(メタクリル酸グリシジルエステル)を共重合して、種々のマクロモノマーを合成したが、いずれも末端2重結合数は高く、マクロモノマー主鎖への官能基の導入は容易であった。これらのマクロモノマーは、α位が水素であるアクリル酸エステル類、St(スチレン)、AN(アクリロニトリル)と共重合可能であり、MMAのようなα位に置換基をもつモノマーとは共重合しにくいことが判明した。
ラマン分光法を用いたマレイミド化合物の紫外線硬化挙動の解析
ラマン分光法を用いて、マレイミドアクリレートおよびマレイミド基含有ポリマーの紫外線(UV)照射下における反応性の解析を試みた。同方法により、マレイミドアクリレートのマレイミド基とアクリロイル基の反応率の変化がうまく追跡できた。マレイミド基は、酸素による重合阻害を受けにくいため、UV照射初期に誘導期は見られず、また膜厚が薄い方が反応率は高かった。光開始剤を添加するとマレイミド基の反応率は低下したが、アクリロイル基の反応率は増大した。マレイミド基を有するポリマーを使用した場合においても、同様にマレイミド基の反応率を測定することができ、光二量化反応の進行(光架橋)が追跡できた。マレイミド基含有ポリマーに多官能アクリレート(MFA)を配合し、UV照射すると、MFAのアクリロイル基の重合が進行し、かつ、マレイミド基の反応性も向上することがわかった。この結果、MFA配合品は未配合品よりもUV照射後の塗膜の硬度と耐溶剤性が格段に向上した。
λファージを用いたファージディスプレイ法による新規自己抗原の探索
米国スクリプス研究所の丸山により開発された、λファージを用いた新規ファージディスプレイ技術を応用し、自己免疫疾患に対する自己抗原を探索した。最初にシェーグレン症候群をターゲットにして自己抗原を探索し、既知自己抗原だけでなく新規自己抗原を得ることができた。1985年に繊維状ファージを用いたファージディスプレイ技術が提唱されて以来、この技術を用いてcDNAライブラリーから自己抗原を得た最初の例である。一般に、自己抗原を探索する他の既存技術では、単調かつ多段階のプロセスを必要とし、しかも2~3年で1または2個の自己抗原が得られる程度の効率であるが、本方法では1年で7個以上(その内、3個は新規)の自己抗原を見出すことに成功し、既存技術に比して効率的な探索方法であることが分かった。
更に、患者数は多いが自己抗原が得られにくいとされる、慢性関節リウマチをターゲットに自己抗原を探索し、幾つかの新規自己抗原を得ることに成功している。以上の結果より、λファージを用いたファージディスプレイ法は、新規自己抗原の探索に非常に適した方法であることが分かった。
新技術・新製品紹介
高吸水性樹脂「アロンザップ」の高機能化
スルホン酸系モノマーの使用等、独自の技術により高機能化した高吸水性樹脂(アロンザップ)を紹介する。電解質水溶液、酸性水溶液、アルコール水溶液での吸水性の向上技術、抗菌機能、消臭機能の付与を中心に説明する。
プラスチック添加剤 ARUFON
高温連続重合で得られた液状の低分子アクリレートポリマー
ARUFON「UPシリーズ」のプラスチック添加剤分野(可塑剤、加工助剤、及び無機充填剤用分散剤)での応用を試みた。ARUFONは各種の熱可塑性樹脂に相溶し、可塑化効果を示した。特にPVC、ABS、PMMA樹脂等の可塑化に優れている。また、透明ポリスチレン系樹脂(透明ABS,透明HIPS)やPMMA用樹脂の加工助剤として、透明性を損なわずに成形性を向上する事が出来る。さらにARUFONは、ポリオレフィン系樹脂中への無機充填剤の分散性を向上させ、特異な特性を付与する。
低収縮性可視光硬化型接着剤「LCR0641」
アクリル系光硬化型接着剤は硬化収縮が大きく、接着時に厳密な位置固定精度が要求される用途には適しない。特定のシリカ系フィラーを安定に分散させることにより、3%以下という画期的な低収縮率を示す可視光硬化型接着剤「LCR0641」を開発した。その技術と特性を紹介する。
無機/有機ハイブリッド防カビ剤「カビノン」
健康で快適な生活環境の充実が求められる中で、抗菌・防カビは必要不可欠なものとなっている。防カビ剤は大きく分けて有機系、無機系に分類される。無機系は耐熱性や耐久性に優れるが、カビに対する効果が弱い。有機系は、防カビ効果は高いが、熱、光(紫外線)により分解が起こりやすく、また、水や有機溶媒に溶出しやすく効果が持続しないことや、安全性に問題のあるものが少なくない。新しく開発した無機/有機ハイブリッド棒カビ剤「カビノン」は、無機層状化合物の層間に有機系防カビ剤をインターカレトさせたものであり、これらの問題点がなく、広い用途に適用可能である。その特性と用途を紹介する。
ソルダレジストフィルムの開発
半導体パッケージで要求される無電解めっき時、及びはんだ付け時における、銅との密着性や耐クラック性などの厳しい条件をクリアし、フィルムタイプで長期保存安定性を有する新しいソルダレジストフィルムを開発した。微細開口穴の加工が可能で、アルカリ現像による解像性が良く、比較的低温で良好な加熱流動性を有しており、配線回路パターンの埋込み性が良いので平滑な表面が形成できる特性がある。また、真空ラミネートにより微細穴のスルーホールやブラインドバイアホールを、ボイドフリーで穴埋め加工することが可能である。
オキセタンモノマーの硬化型材料への応用
最近、光潜在性開始剤を用いた光硬化型材料の開発が進んでいる。光硬化型材料は有機溶媒の大気放出が無く、二酸化炭素の発生が少なく、硬化に必要なエネルギーが少ないなど環境適合性が優れている。また、光照射により室温硬化が可能であり、フィルム等の熱に弱い材料への適応が可能である。同材料には、重合開始種が空気中の酸素の影響を受けるラジカル重合型と、このような影響を受けないカチオン重合型がある。カチオン重合型材料としてグリシジルエーテル系材料などのエポキシ系材料が広範に検討されているが、重合性(硬化性)の低さが問題になる場合がある。高い環歪みと塩基性を有する四員環環状エーテルであるオキセタン化合物は、活性なカチオン重合性基(オキセタニル基)を持ち、これらの問題を解決することができる。オキセタンモノマーの合成と、光および熱カチオン硬化型材料への応用につき紹介する。
分析技術
MALDI-TOF-MS法によるアクリルオリゴマーの構造解析
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)の特徴、測定原理と、アクリルポリマーのキャラクタリゼーションへの適用例について紹介する。
トピックス
バイオインフォマティクスの発展と東亞保有の関連技術
ヒトゲノムの解読競争は21世紀の開幕と前後してその終了が宣言され、ポストゲノム時代に入った。しかし、ここでいうヒトゲノムの解読とは、単にゲノムの全塩基配列を決定することであり、個々の遺伝子がどこにあり、その機能が何であるかが未だ分かったわけではない。ここにおいて、大量のゲノム配列情報を効率よく解析して研究に生かす目的で、生命科学と情報科学が融合したバイオインフォマティクス(生命情報学)が急速に発展している。
当社は、世界に認められたバイオインフォマティクス技術を保有しており、その概要と適用例につき紹介する。これらの技術を人類の財産であるヒトゲノム情報の解析に有効に活用し、社会に貢献したいと考えている。