東亞合成研究年報13号
2010年01月01日発行
論文
スチレン-イソプレンブロック共重合体の選択性溶媒中での構造と緩和挙動
材料のマクロな特性である力学特性(粘弾性挙動)はブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造など、サンプルの高次構造に大きな影響を受けるとされている。本研究では、構造とそれに由来する粘弾性挙動との関連を明らかにすることを目的として、スチレン(S)とイソプレン(I)からなるブロック共重合体のイソプレン選択性溶媒溶液について粘弾性測定をおこない、イソプレンを選択的に溶解する選択性溶媒の種類・組成やブロック共重合体の違いによる相分離構造の変化と、それに由来する粘弾性挙動との関連について、誘電緩和測定や小角X線散乱(SAXS)の結果を含め考察した。SI2Sトリブロック共重合体溶液においては、全ての系で弾性的な挙動を示したが、その平衡弾性率は選択性溶媒組成比によって異なっていた。そこで、弾性の発現に寄与していると考えられるブリッジ鎖の割合を誘電緩和測定から見積もった結果、ブリッジ鎖の割合は20%~30%と求まった。しかし、このブリッジ鎖の割合から計算した平衡弾性率は実際の平衡弾性率より小さかったことから、弾性にはブリッジ鎖による寄与に加え、拘束を受けたループ鎖も寄与している可能性が示された。
新技術紹介
分散重合による単分散微粒子の合成とその応用~メタクリロイル基を有する分散安定剤の有効性~
エマルション重合法により合成されるサブミクロンサイズの高分子微粒子は、塗料、バインダーおよび粘接着剤等の用途において、粒子が融着して形成される膜として利用されている。一方、懸濁重合法や分散重合法により合成されるミクロンサイズの高分子微粒子は、その「粒子」としての機能が利用されている。例えば、光拡散剤、艶消し剤、スペーサー、フィルムのブロッキング防止剤、ファンデーション等の化粧品添加剤、気孔形成材等の用途である。
ポリシアノアクリレートと揮発性蛍光染料を利用した指紋検出
シアノアクリレートは、瞬間接着剤「アロンアルフア」の主成分であり、家庭用、工業用、また医療用として様々な場面で「接着用途」として使われる。しかし今回紹介するのは、シアノアクリレートを「接着以外の用途」として使用する珍しい事例である。
そもそも、シアノアクリレートを「指紋検出」に利用するといって、具体的に想像がつくであろうか?瞬間接着剤を良く使われる方はピンと来たはずである。接着時に液がはみ出てしまった場合などに、その液が周りに揮散して白く粉を吹いたように汚れてしまう、いわゆる「周辺白化」と呼ばれる現象が起こる。基材に指紋が付いていた場合には、その指紋が周辺白化によりくっきりと浮かび上がった経験は無いだろうか。指紋検出は、まさにこの通常好ましくない現象を活用した方法である。
新製品紹介
低熱膨張性フィラー「ウルテア™」の開発
鉛は、その高いイオン分極能により安定且つ高濃度にガラスへ含有させることができ、得られる鉛ガラスは多くの優れた特徴があるため、古くから様々な用途に利用されてきた。たとえば、高屈折率が得られることで装飾用クリスタルガラスや光学用レンズ、高電気抵抗性を活かしてテレビのブラウン管やPDP隔壁、蛍光灯、さらには低融点化できることで電子回路用ガラスや封着用ガラスなどの用途が挙げられる1)。特に電球には、発明者のエジソンが金属電極線の封入のためガラスと金属を封着する材料として使用して以来、低融点で低熱膨張性の鉛ガラスが用いられてきた。
無機顔料用高性能分散剤 T-AXシリーズ
原紙に白色顔料を塗工して作られる塗工紙は、その白色性・平滑性・光沢性などにおいて多くの利点を有している。そのため、様々な分野で幅広く利用されており、ここ数年の紙需要の伸び率は中国を筆頭に目覚しいものがある(図1)1)2)。塗工紙用白色顔料には主に無機顔料が用いられる。例えばカオリン・酸化チタン・炭酸カルシウム・タルク等が挙げられるが、これらの顔料は物性面や価格面で違いがあり、目的とする塗工紙品質に応じて使用する顔料の比率が調整される(表1)3)。またこれら顔料粒子は、保存時や塗工時の扱いを容易にするために、高分子分散剤を添加して低粘度水性分散体(スラリー)として使用することが多い。
近年では、より微細な粒子に分散されたスラリーや、より高い顔料濃度のスラリーを用いることによる低コスト化や高白色度・高光沢度といった性能の向上が望まれており、使用される分散剤に対しても従来以上に分散性能の高いものが要求されている。
本稿では、このような要求を満たすべく当社が開発した高性能分散剤を紹介する。この分散剤は、上記に挙げた塗工紙用顔料に対する分散性はもちろんのこと、その他の代表的な無機顔料に対しても良好な分散性能を示す。
紫外線硬化型絶縁コート剤の開発 アロニックス UVX-5800
電気機器の小型軽量化や高機能化に伴う高密度実装化により、実装回路基板の導体間距離(電極間隔)が狭くなる傾向にある1)。そのため、湿気や埃などで絶縁不良がより発生し易くなることから、絶縁信頼性を高める目的で、基板上にアクリル系樹脂やシリコーン系樹脂等の絶縁コート剤が塗布されている。
例えば薄型大画面テレビの場合、FPD(Flat Panel Display)パネルとFPC(Flexible Printed Circuit)の接続部(図1)に、絶縁コート剤が使用されている。
導電性高分子用フォトエッチング用薬剤、及びパターニングシステム
導電性高分子とはその名の通り導電性を有する高分子であり、代表的な物としてポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等がある。現在、導電性高分子の応用が進んでいるのはコンデンサー用途であり、電解液の代わりに用いることで、周波数特性に優れたコンデンサーが得られている。コンデンサー用の導電性高分子の導電率はおよそ10~100S/cmであるが1)、現在は高導電化が進み、導電率は200~600S/cmとなっている2)。なかでも、ポリチオフェン系のポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(以下PEDOT/PSSと略記する)が、導電性と安定性の面から特に優れている。
コンデンサー以外の用途として、導電性高分子を透明導電膜に応用するためには、次項で述べるように導電性高分子をパターニングする必要がある。当社では導電性高分子用の生産性の高いウエットエッチング剤、並びに一連のパターニングシステムを開発したので、PEDOT/PSSに対する薬剤を中心に紹介する。
研究コラム
開発を進める処方箋:三極化
掲載:『TREND』13号
所属:基盤技術研究所長
執筆者名:佐々木 裕
野菜マニア
掲載:『TREND』13号
所属:研究再構築推進室
執筆者名:太田 喜章