東亞合成研究年報18号
2015年01月01日発行
新技術紹介
無機イオン捕捉剤の原子力用途への応用
2011年の東日本大震災の影響で発生した福島第一原子力発電所の事故を契機に、放射性物質の吸着除去に関する研究が盛んに行われている。現在では、低レベル放射性廃液の処理はイオン交換樹脂による吸着除去方法が主に採用されている。しかし、福島第一原子力発電所事故や、廃炉時に発生する高レベル放射性廃棄物の処理には耐熱性、耐放射線性などに劣るイオン交換樹脂は使用し難い面がある。一方、無機イオン捕捉剤は高レベル放射性廃棄物中でも劣化し難く、放射性核種の吸着特性にも優れている。そこで、我々は各種無機イオン捕捉剤による高レベル放射性廃液処理を想定したRu3+,Co2+,Mn2+およびIO3-の吸着性能を評価した。
タッキファイヤーの表面偏析を利用したタッチパネル用粘着剤の耐発泡性向上
タッチパネル用粘着剤で問題となる湿熱負荷による発泡を、タッキファイヤー(TF)を添加することにより抑制する検討を行った。耐発泡性は粘着力に、粘着力は粘着剤ベースポリマーとTFの混和性に影響されると推定し、それらの関係について調べた。X線光電子分光測定により粘着剤の表面組成分析を行ったところ、発泡を抑制した粘着剤の表面はTFの重量分率が非常に高く、TFが粘着剤の表面に偏析していた。この結果から耐発泡性の向上には、粘着剤全体の柔軟な性質を維持しつつ、TFが表面に偏析することにより表面近傍にガラス転移点温度(Tg)の高い領域が形成されたことが寄与したものと推定される。
解説
「クリアイマージュ」によるPEDOT/PSS膜エッチング過程の解析
東亞合成ではポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(以下PEDOT/PSS)のエッチング剤としてTTE-CとTTE-Eの2種類を上市している。これらを用いてPEDOT/PSS膜をエッチングすると、使用した薬剤によってエッチングの仕上がりに違いが生じることが分かっている。そこで、本稿ではエッチングした膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果に基づき、「薬剤が違うと、なぜエッチングの仕上がりに違いが生じるか?」を議論した。また、仕上がり状態だけでなく、エッチングの進み方も薬剤によって異なることを明らかにした。
新製品紹介
新規瞬間接着剤アロンアルフア カラーチェンジ」
ボンドアロンアルフアは、家庭用接着剤および瞬間接着剤の代名詞として日本国内ではトップシェアを誇り、多くの顧客にご愛用頂いている。また、日本以外の米国でもKrazy Glueの名称で非常に高い知名度を持つ他、欧州をはじめ世界中で販売されている。シアノアクリレートを用いた瞬間接着剤という製品が世に出てから半世紀以上が経過したが、接着性能、製品容器、使いやすさ等いろいろな点で、今も各社が凌ぎを削っており、まだまだ新しい技術が提案され続けている。本製品紹介では、使い勝手に着目し2014年に新しく製品化した「カラーチェンジ」について、その開発経緯と製品性能ついて述べる。
有機・無機ハイブリッド型コンクリート中性化抑制塗装システム「アクリセプト工法」
有機・無機ハイブリッド型コンクリート中性化抑制塗装システム「アクリセプト工法」は、鉄筋コンクリート造建築物の長寿命化技術の一つとして、中性化抑制にフォーカスした予防保全工法である。200μm前後の薄膜でありながら、塗膜防水材並みの中性化抑制効果を発揮できることは、仕上げの自由度が大きくなり、意匠と保護の両立が可能になる。また、経年で発生する可能性のある鉄筋腐食による錆汁の発生やコンクリート片のはく離・はく落、メンテナンス時の下地補修手間がなくなるため、ライフサイクルコスト(LCC)の低減も期待できる。
研究コラム
研究開発部門のあるべき姿
掲載:『TREND』18号
所属:R&D総合センター
執筆者名:山本 則幸