2001年12月6日

ヒト21番染色体上の新規な繰り返し配列の発見について

東亞合成は、名古屋大学および東北大学などの研究グループとともに、ヒト21番染色体上に存在する多数の未知繰り返し配列を「色彩パターン化法」により発見致しました。
これは、当社吉田徹彦主任研究員(当社新製品開発研究所)、大澤研二助教授(名古屋大学大学院多元数理科学研究科および科学技術振興事業団・難波プロジェクト)、尾畑伸明教授(東北大学大学院情報科学研究科)らの共同研究チームによる成果です。
今回、「色彩パターン化法」を遺伝子配列に適用することで、従来法では発見が困難であった長い繰り返し配列や、一部が置換、欠如あるいは挿入された繰り返し配列をも見つけだすことに成功しました。さらには種々の繰り返し配列が染色体上に偏って分布していることなども発見しました。
現在世界では、ゲノムプロジェクトによって解析された遺伝子配列に対して、多くの研究者が種々のアノテーション(注釈、情報)を付与しつつ、各種の研究を開始している段階です。このような状況の中、上記発見はヒト21番染色体のみならず遺伝子研究全体にとっても重要な情報を与え、疾病原因や進化の謎といった問題を解明するための糸口になる可能性が大いに期待できます。
本研究成果は、12月9日から横浜市で開かれる「日本分子生物学会」において発表致します。(発表日12月11日、演題番号3P-076)。
なお、この「色彩パターン化法」は、1998年にロレアル賞を受賞し、さらに本年3月末には特許になっております。

東亞合成ではここで紹介した技術(「色彩パターン化法」)は多彩な分野での応用が可能なことから、積極的にライセンシングも実施していく予定です。

以上

色彩パターン化法とは

「色彩パターン化法」は記号列の解析手法の一種で、独自な方法で一次元の情報配列を二次元に並べ替えて、文字などの記号を色に置き換えるもの。これを適用することで、配列情報中に存在する様々な繰り返しパターンや分布の偏りなどを視覚的かつきわめて容易に発見できる。1998年にロレアル賞を受賞し、さらに本年3月末には特許を取得。
今回は「色彩パターン化法」をバイオインフォマティクス分野に応用して成果を得たが、これは本技術応用範囲のほんの一例にしかすぎない。本技術は本質的にありとあらゆる分野、例えばデザイン分野から言語学分野、気象分野、経済分野などに至るまで多方面において無限の応用が期待できる。

ヒト21番染色体について

ヒトは24種類の染色体を持つ。国際協力で行われたゲノムプロジェクトで、最初に全塩基配列が解読されたのが22番、つぎが21番である。この21番染色体はヒトの染色体の中で最もサイズが小さく、その塩基配列は日本チームが主体で解読が行われた。
21番染色体はダウン症候群やアルツハイマー病、急性骨髄性白血病をはじめいくつもの難病の遺伝子を含んでいることが判明している。

繰り返し配列について

ゲノムプロジェクトの研究の結果、ヒトゲノムの約半分は、直接生体機能に関与しない繰り返し配列が占め、残りに様々な遺伝子が存在することが分かってきた。また、1~4個の塩基の繰り返し配列であるSTR(Short Tandem Repeats)の多くはゲノム中の遺伝子以外の領域にあり、個人によって繰り返し回数が大きく異なることから多型マーカーとして注目されてきた。さらに、近年ハンチントン病など数多くの遺伝病が、原因遺伝子の中にある3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート)が伸長することが原因で発症することもわかってきている。このほか、繰り返し配列との関係に関しては、生物の進化遺伝学や動物の性格・行動遺伝学の面からも研究がなされている。しかしながら、長い繰り返し配列や、一部が変異している繰り返し配列についての情報は少なく、また研究も始まったばかりで、それらの機能はまだはっきりとしていない。遺伝子の塩基配列の中に潜む繰り返し配列をはじめとした種々の生命情報を効率的に同定することは、遺伝子の機能を考える上で今後ますます重要なものになると考えられる。新たに発見される繰り返し配列は、生物の進化や疾病などと直接関係している可能性や、あるいはそれらを解明する糸口となる可能性も期待できると思われる。

ロレアル賞

ロレアル賞は、色を対象に科学と芸術の掛け橋となるような作品や研究を発表した人を表彰する目的で、化粧品で有名なロレアル・グループが基金を設立して1997年に創設された。あらゆる分野の人々を対象に広い意味での色に関する論文・作品などを募集し、科学と芸術の創造的な出会いに貢献している人を表彰している。これまでに選考委員にノーベル賞受賞者を迎えるなどし、現在では話題性のある国際賞として知られる。

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