PHASE 01
強い危機感のもとでの出発
「電池だって? 我々にとってまったく未知の分野じゃないか!」。2014年、「リチウムイオン二次電池用バインダー開発プロジェクト」に自分がアサインされると聞いたとき、N.Sの胸に湧き上がったのはそんな驚きだった。
話は1年前に遡る。東亞合成では次世代の柱となる製品を開発すべく、アクリル酸の活用を意識したアクリル事業強化プロジェクトが発足した。「背景には、強烈な危機感があった」と振り返るのはT.Hだ。
T.Hは「化学メーカーの開発競争は熾烈さを増しているが、自分が入社して以来、当社では大型の新製品が育っていない。このままじゃ生き残っていけないという強い思いが社内にはあった」と言う。そんな危機感のもとで発足したのが大型テーマ探索プロジェクトだったのだ。
そして1年をかけて探索が行われた結果、立ち上がったテーマは3つ。その中の一つが、東亞合成の持つ高分子合成技術を活かしてリチウムイオン二次電池用バインダーが開発できないか、というプロジェクトだったのである。
とはいえ、東亞合成はそれまで電池の市場にはほとんど無縁で、知見はまったくない。N.Sは素人同然と言ってもよかったという状態であった。成功の保証はない。それでも次世代の柱を育てるためには、リスクを怖れずにチャレンジする以外にない。プロジェクトに参画することを命じられたN.Sは「わからないからこそ、がむしゃらにトライすべきだ」との決意で一歩を踏み出したのだった。