東亞合成研究年報27号

2024年1月1日発行

論文

抗血栓性を有する医療機器用新規アクリル系コーティング材の開発

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人工心肺やカテーテルなどの血液と接触する医療機器には、血栓の形成を抑制するために、生体適合性(抗血栓性)に優れるコーティング剤が使用される。従来から、動物由来のヘパリンが使用されてきたが、感染症のリスクなどの課題があり、それに代わる合成高分子コーティング剤が注目されている。しかし、従来の合成高分子コーティング剤は抗血栓性が十分ではなく、その改良が望まれている。
我々は、抗血栓性に関連する中間水量に着目し、優れた抗血栓性を示すポリマー構造に関して検討した。その結果、側鎖にウレタン基もしくはウレア基を有するアクリルポリマーが、従来の合成高分子コーティング剤より、優れた血液成分の抗吸着性を示し、高い抗血栓性を有することが示唆された。

分析技術

ラボ用X線回折装置を用いた小角X線散乱測定の検討

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SAXS (Small-angle X-ray scattering, 小角X線散乱) は高分子ミクロ相分離などを非破壊で分析できる手法である。本稿ではラボ用X線回折(XRD)装置を用いたSAXS測定の検討結果を報告する。トリブロックポリマーを被検体とし、その相分離構造の顕微鏡観察結果や大型放射光施設でのSAXS測定結果とも比較することでラボ用XRD装置での測定データの妥当性を確認した。ラボ用XRD装置での測定は、大型放射光施設での測定よりもピーク感度は劣るものの0.14 < q < 0.4 (nm-1) 程度の範囲(構造の大きさにして15~60nm)の測定においては妥当な散乱プロファイルが得られることがわかり、その有用性を確認することができた。

新技術紹介

アロンフィブロの増粘剤への展開

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東亞合成ではセルロースナノファイバー(CNF)に解繊しやすい酸化セルロース「アロンフィブロ」の製造法を確立し、その用途開発を進めている。その1例として増粘剤やゲル化剤としての検討例を紹介する。
アロンフィブロCNFは「細くて短い」という形態的な特徴を持っている。この特徴は水分散液が増粘しにくいという特性につながり、他の材料との混合時やCNF濃度を上げる場合には長所となった。しかし、増粘剤としての性能は低かった。そこで、我々はアロンフィブロCNFへの少量の水溶性多糖添加を検討したところ、適切な組み合わせを選ぶことで大きな増粘効果を発現することを見出した。また、この方法で増粘した系は耐塩性にも優れており、化粧品や水性塗料の粘度コントロールなどへの応用が期待できる。

新製品紹介

家庭用光硬化瞬間接着剤「アロンアルフア 光」

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アロンアルフアは、「瞬間」と呼べる接着の速さを特長とする接着剤である。しかし、湿気硬化という反応の性質上、液があふれた場合や細かい隙間を埋めるような場合にはなかなか硬化できないことが、長年の課題であった。
我々はこの課題を解決する新製品の開発を進めてきた。この度、湿気硬化と光硬化の2つの硬化方法を併せ持つ新製品「アロンアルフア 光」の開発に成功した。
本稿では、「アロンアルフア 光」の特長について説明するとともに、その特長を活かした新しい接着提案や接着例を紹介する。

新規樹脂練り込み用抗ウイルス加工剤「ノバロン IV4000」

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新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い、抗ウイルス加工を施した樹脂製品のニーズが増加している。一方で、既存の抗ウイルス加工剤は樹脂への少量の添加では抗ウイルス効果を発現しづらく、抗ウイルス加工剤の過剰添加に伴う樹脂の高コスト化と物性低下が課題となっている。そこで当社は、少ない添加量でも高い抗ウイルス効果を付与できる樹脂練り込み用抗ウイルス加工剤「ノバロンIV4000」を新たに開発した。「ノバロンIV4000」を各種樹脂に対して2 wt%練り込むことで、インフルエンザウイルスに対して非常に高い抗ウイルス効果を発現する。また、本材料は銀を含まないため変色しづらく、樹脂物性に悪影響をほとんど及ぼさないことも確認した。本稿では、樹脂練り込み用抗ウイルス加工剤「ノバロンIV4000」の特徴や抗ウイルス性について紹介する。

高いアンモニア消臭性能を付与するポリエステル繊維向けマスターバッチ

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消臭機能を持たせた繊維は、インナーウエアやインテリア、寝具、ユニフォーム等に使用され、最近ではコロナ禍の運動の実施控えの反動などからスポーツウエアやアクティブウエアでの需要増と汗臭対策へのニーズが高まっている。汗臭の原因であるアンモニアガスに対し、無機消臭剤ケスモンNS-10を20%含有するポリエステルマスターバッチBT-1200、BT-1201を上市しており、これに加え消臭スピードの速いNS-10 F2(D50:0.4μm)を含有した開発品BT-2201をラインナップした。
本稿ではBT-2201を使い作製したポリエステル糸の優れたアンモニア消臭性能について紹介する。

常温・速硬化可能な電磁鋼板用接着剤

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近年、CO2排出量削減を目的とした自動車の電動化が加速しており、駆動用モーターには、高い性能が求められている。モーターの主要部品であるステータは、電磁鋼板を積層して製造されている。従来、この積層体は物理的な凹凸で固定されてきたが、歪によるエネルギー変換効率の低下が課題であった。そこで、固定時に歪が発生しない接着積層法が注目されている。本手法に適する接着剤として当社は、嫌気性接着剤「ATXシリーズ」を開発した。本製品は、極めて高い油面接着性に加え、常温・速硬化可能で加熱工程が不要など、コスト・工程時間・CO2排出量の観点からも他の接着剤には無い長所を備えている。
本稿では、ATXシリーズの特徴や各種条件下での接着特性について紹介する。 

良触感技術を活用した製品開発

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熱可塑性エラストマーは常温ではゴムのように柔軟に変形できる特徴があり、加熱すると溶融して通常の熱可塑性樹脂と同様の成形加工が可能な材料である。一体成形が可能でアッセンブリが不要な為、グリップや自動車内装材などに用いられることも多く、それら人が触れる用途では良触感性が求められていた。しかし、従来の熱可塑性エラストマーでは柔らかいとベタツキが発生することや、触ると冷たく感じるなどの触感性の課題があった。
そこで材料と表面加工の検討を行い、「柔軟でサラサラとした触感のエラストマー」と「スウェード本革のような温かみのあるエラストマー」の開発を行った。本稿ではその内容について紹介する。

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